ハラスメントを告発しました

1.本稿の目的

はじめまして、私は某私立大学の学生です。私は所属している部活において一定期間、指導者からパワーハラスメントを受けており、学校と連携して対応を行っていました。本稿を通して、いかに部活という狭い環境の中では、学生と指導者の間で歪んだ力関係が発揮されやすいか、そしてハラスメントやいじめを解決するためにはどういった手段があるかを伝えていきたいと思います。

ハラスメントの例を挙げるため、私の体験をかなり具体的に書いていますが、この問題は学校側の迅速な対応のおかげですでに解決しており、加害者からも謝罪文を受けとっています。本稿では私へハラスメント行為を行った人たちを責めたり、問題を蒸し返したりするつもりは一切ないということをはじめにご了承ください。本稿がハラスメントで悩んでいる人たちが戦うための参考資料になれればと思います。

2.私と部活について

私は1年次から体育会系の部活に所属しており、2019年から2020年にかけて副主将、2021年から2022年にかけて学生代表(主将)を務めていました。

私の所属している部活は創部から半世紀以上の歴史を持ち、先輩方は海外でも実績を上げている伝統のある部活です。現在は昔とくらべると弱体化していますが、部員たち一人一人が自分の目標に向かって一生懸命活動している良い部活だと思います。部員は男子部員が約20名、女子部員は私1人です。

3.私が代表に選ばれた経緯について

私が入部してから、活動内容の過酷さ、また部の旧態依然とした雰囲気に耐えられないという理由で複数名の学生が部を去り、女子部員は私だけになりました。そんな状況でしたので、先輩方から副主将のオファーを受け、ゆくゆくは主将を任せたいといわれた時は非常に驚きました。なぜ優秀な男子部員達ではなく自分を選んだのか尋ねると「女子のほうがOB(指導者たち)のあたりが優しいから」と言われました。私は実力ではなく、じぶんの性別だけで代表を任されたのです。上記の発言からいかに部員たちが常にOBの顔色をうかがっていたかがご理解いただけるのではないかと思います。そして翌年、私は創部以来初の女子主将となりました。

4.主将になってみて

私が主将になるにあたって最初に決めた目標は「部員たちの裁量で部活ができるようになること」と「指導者たちに遠慮はせず、部の利益のために本音を伝える」ということです。OB出身の指導者たちの部への干渉が激しすぎること、部員たちは自分たちのやり方を指導者たちに認められず、言いなりになっているという現状を変えていこうと決意していました。目標を果たすため、今後の部の運営方針について何度も指導者たちと話し合いを重ねましたが、なかなか考えを変えていただくことはできませんでした。そして、だんだんと状況が悪化していきます。

 

ハラスメントについて

私が部の様子を見ていて一番気になったのは、ある指導者(A氏)による部員への暴言です。A氏は指導者の中では比較的若く、私が主将になった時にコーチとして部に関わるようになりました。彼は現役生だった時の目覚ましい実績から指導者たちにも一目置かれているような存在で、私たち部員もはじめは彼を慕っていました。しかし、A氏はだんだんと変わっていきました。部員がLINEのグループ、ミーティング等で発言をするとA氏は細かい日本語の訂正をし、部員が質問をすると「こんなこともわからないのか」という馬鹿にしたニュアンスの発言、私たち部員や学校関係者を貶す発言や「無能」、「使えない」等の暴言を日常的に繰り返すようになりました。部員達はA氏の発言に萎縮してしまい、自分たちも何か発言をすれば誹謗中傷の的になってしまうのではないかという恐れから、気軽にミーティングやLINEでも自由に発言することができない空気が生まれました。また、LINE等での暴言と捉えられるような発言はA氏によって必ず送信が取り消されていることも気になっていました。

5.私とA氏

 私は入部してまもなく、ロッカーに「臭そうbyA」と書いてあるガムテープを張られたことがありました。A氏には幼稚な一面がある一方で私が主将になったばかりのころは良い関係が築けていたと思います。私が部の運営方法で悩んだときはA氏に相談し、他の指導者たちから実情に即していない理不尽な要求をされたときはA氏にかばってもらうこともありました。

関係が変わったように感じたのは私がA氏に意見した時からです。私が主将になってから半年くらいたった時期のA氏は、指導者という立場を勘違いした傲慢な発言と部員を軽視した態度が目に余っていました。さらに、後輩たちからA氏の部員達へのあたりが強すぎて恐い、自分たちがいつA氏の暴言の標的になるかと思うと怖くて積極的に活動することができないという相談を受けたため、直接本人に暴言をやめるよう忠言をしました。

私はその日を境に部活動の運営について必要な情報をA氏から与えられなくなり、ほかの部員から情報が伝えられるというような状況になりました。また、私が今後の予定を発表しても「本気で考えてきてないから相手にしなくて良いです」と発言を遮られ、ミーティングに途中から参加した日には「あれ、生きてたの?」などと言われるようになりました。

6.告発の理由

私はAからの細々とした嫌がらせにも暴言にも目を背けて耐え続けていました。自分が主将として未熟だから理不尽な扱いを受けているのだと当然のように思い込んでいたからです。しかし、LINEで「しね」と言われたことをきっかけに然るべき機関へ報告することを決めました。私が黙っていては、部は何も変わらないからです。次の被害者を出させないためにも声を挙げる決意をしました。

7.告発のやり方

あくまで私がとった手段になります。

① 証拠を集める

私はLINEのやり取りをスクリーンショットで、また口頭での暴言の内容と言われた日時を携帯のメモ機能で記録しておきました。最終的なファイル数はおよそ25個ありました。

② 学校へ提出する文章を作る

ハラスメントにあたると思われる発言と写真で残した証拠をまとめたものと、今後の学校への要求(ハラスメントの調査等)について書いたものをワードでまとめました。

③ 部長への相談

指導者とは別に、大学の部活では大学職員が「部長」の役職を担っています。私たちの部活の場合は教授が部長に当たるので現状の説明と今後の相談をしに行きました。信頼できそうな関係者と事実を共有して味方をじわじわ増やしていきました。

 

告発する際の注意

① あまり多くの人と告発について共有してはいけません。加害者の行動をいち早く止めたい気持ちはわかりますが、どこから情報が洩れるかわからないからです。まずは淡々と証拠を集めて事実を然るべき機関に報告しましょう。

② 調査が進んでいく中で「和解や話し合い」を加害者から持ち掛けられたときはスルーしたほうが良いと思います。自分が納得する到着地点にたどり着くまで妥協は禁物です。

③ ハラスメントされたことがフラッシュバックして辛い時は、カウンセラーや病院に頼ったほうが良いと思います。一番大切なのはあなたの体です。頑張りすぎないようにしてくださいね。できるのであればすぐにハラスメントをしてくる人から距離を置いたほうが良いです。

8.部員たち、周りの反応

私は副主将と親に告発することを相談しましたが「そもそもハラスメントが何なのかわからない」「あなたの考えすぎじゃないか」という風に言われました。ハラスメントとの告発をするときに一番困るのはこの考え方なのではないでしょうか。パワーハラスメントは「この発言があったからハラスメントだ」と定義できるものではなく、お互いの関係性や被害の程度、周りの環境への影響など複数の要素が合わさって定義されます。だからこそ、ハラスメントを受けているかもしれないと思ったときは専門家から判断してもらう必要があると思います。親や友達に相談してアドバイスをもらっても、あくまでも個人の考えに過ぎないと考えたほうが良いです。

9.告発してから現在に至るまで

私はまず「ハラスメント相談員」という学校が委託している外部の機関の方と面談をしました。相談員の方を通して学校内のハラスメント対策委員会に話が持ち上がります。提出した証拠をもとにかけて部員や指導者へのインタビューが行われた後、今回のケースはパワーハラスメントにあたると正式に学校から報告されました。

10.思ったこと

私はハラスメントを受けるようになってから毎日泣くようになりました。友達に話を聞いてもらっていても辛かったことを思い出してしまって、大きな声で泣いてしまうことが何度もありました。調査がスムーズに進んでいないのではないか、あれだけ騒いだのに、ハラスメントと認められなかったらどうしよう・・・と考え込んで眠れない日が続きました。気にしていないつもりでも、心はダメージを受けているものです。もし被害に遭ってしまったら、まずは自分のケアをすることを優先してください。

今回の経験から、不幸にもハラスメントの被害に遭ってしまったときに必要なのは怯まずに声を上げ続けることなのではないかと考えます。自分に落ち度があると思って耐える必要は一切ありません。少しでもおかしいと思ったら専門家に相談してみてほしいと思います。行動を起こしていく中で1人2人は「あなたが悪いことしたんじゃないの?」なんて言ってくる人がいるかもしれませんが、気にしてはいけません。あなたが感じた違和感を信じ続けてください。

大学生なら、まずは学生課に相談するのがおすすめです。高校生や中学生ならまずは担任や養護教諭の先生、カウンセラーに相談しても良いかもしれません。あなたが所属している組織から第三者の立ち位置であり加害者と同格、または上の立場の人に相談をした方が良いです。間違っても本人に「それはハラスメントです」といっても効果は期待できないのでやめておきましょう。

 

元同期の部員に今回の件を相談したところ「A氏は女の子には甘いから、私は女子の特権をうまく使ってやってた」といわれ、親には「男の人たちには理解できるノリなんだ(だから流せば良い)」といわれました。女性が組織の長に立つ機会が増えた今でも、こうしたステレオタイプな考え方を求められる人は少なくないのかもしれません。

私は立場の強い人たちのご機嫌伺いをするために、本来の自分を隠して「ただにこにこ笑ってやり過ごす」必要はどこにもないと考えます。毅然とした態度で相手の目を見てはっきり自分の意見を伝えていきましょう。

11.  最後に

この文章を読んでいるあなたは学生さんでしょうか?それとも社会に出た大人でしょうか?孤軍奮闘しているあなたを大きな声で応援しています。誰も見てないところで卑怯な奴に脅かされて悔しい思いをしたこと、何も言い返せなかった自分が嫌で恥ずかしくて消えてしまいたくなったことがあるかもしれません。でもそれはあなたが戦った証です。自分が納得できる未来をその手で勝ち取るため、今こそ隠していた牙をむいて吠え続けてください。ふざけた奴らを震え上がらせに行きましょう。

 

あなた自身がハラスメントの被害に遭っていなくても、もし友達やあなたの大切な人が悩んでいたら声をかけて話を聞いてみてください。ハラスメントをする人は巧妙な手段でじわじわと心を追い詰めてきます。そんな時、頼れる人がいるというのは本当に心強いものです。あなたの目の前で泣いている人はだれかに苦しめられていて、心の底からSOSを出しています。この文章を見て思いだす人がいたら、その人に「最近どう?」ってLINEしてみてください。

 

あなたが最後の砦なんです。